単一遺伝子疾患は、個々の遺伝子の変異が原因で発症する疾患群です。
これらの疾患は、遺伝子座における遺伝的変異(塩基の欠失、置換、挿入などの突然変異)によって引き起こされ、通常は潜性(劣性)または顕性(優性)の遺伝パターンに従います。
潜性(劣性)の場合、対立遺伝子のいずれもが変異を持つ場合、変異による疾患を発症します。逆に対立遺伝子の片方が正常であれば、変異を有していても疾患を発症しません。
顕性(優性)の場合、一方の遺伝子が変異を持つだけで病気が引き起こされるため、片親が変異を持っているだけで子供に病気を引き継ぐことがあります。
単一遺伝子疾患は、遺伝子の機能的な喪失または変異によって生じるため、特定の機能の喪失や変化が身体の特定の部位や機能に影響を及ぼします。
単一遺伝子疾患は、その遺伝様式により3つに分類されます。
(1) 常染色体顕性(優性)遺伝病
・・・常染色体上の対になった遺伝子の一方に異常があれば発病する
顕性(優性)遺伝では、異常な遺伝子の1つのコピー(対立遺伝子)が存在するだけで、疾患を発症します。これは、顕性(優性)対立遺伝子が潜性(劣性)対立遺伝子に対して表現型が優位であることを意味します。
【表現型の発現】
顕性(優性)遺伝では、ヘテロ接合(Aa)およびホモ接合(AA)の両方で異常な表現型が現れます。 ここで「A」は異常な対立遺伝子、「a」は正常な対立遺伝子を表します。
【遺伝のパターン】
顕性(優性)遺伝性疾患は、親から子への遺伝が50%の確率で起こります。これは、異常な対立遺伝子を持つ親(Aa)が子供にその対立遺伝子を伝える確率が50%であるためです。
【例】
ハンチントン病:ハンチントン病は神経変性疾患で、CAGリピートの異常拡大を含む顕性(優性) 遺伝子変異によって引き起こされます。
家族性高コレステロール血症:LDL受容体遺伝子の変異により、コレステロール代謝が異常になり、高コレステロール血症を引き起こします。
(2) 常染色体常染色体潜性(劣性)遺伝病
・・・常染色体上の対になった遺伝子の両方が異常であれば発病し、一方のみでは保因者となる
潜性(劣性)遺伝では、遺伝子の両方のコピー(対立遺伝子)に異常(変異)が存在する場合にのみ疾患が発症します。これは、潜性(劣性)対立遺伝子が正常な対立遺伝子によって表現型が隠されることを意味します。
【表現型の発現】
劣性遺伝では、ホモ接合(aa)の場合にのみ異常な表現型が現れます。
ここで「a」は異常(変異)を持つ 対立遺伝子、「A」は正常な対立遺伝子を表します。ヘテロ接合(Aa)では正常な表現型を示しますが、この個体はキャリア(保因者)と呼ばれ、異常遺伝子を次世代に伝える可能性があります。
【遺伝のパターン】
劣性遺伝性疾患は、両親がキャリア(保因者)である場合、子供が疾患を発症する確率は25%です。
これはキャリア同士の組み合わせ(Aa × Aa)では、25%がホモ接合(aa)となるためです。 また50%がキャリア(Aa)、25%が正常(AA)となります。
【例】
嚢胞性線維症:CFTR遺伝子の変異により、粘液分泌が異常になり、肺や消化器系に深刻な問題を引き起こします。
フェニルケトン尿症(PKU):PAH遺伝子の変異により、フェニルアラニンの代謝が障害され、知的障害や発育遅延を引き起こします。
(3) X染色体連鎖遺伝病
・・・性染色体であるX染色体上に異常がある
●性染色体に関連する遺伝
単一遺伝子疾患は、性染色体(XおよびY染色体)に関連する場合もあります。これらの疾患は、性別によって異なる遺伝パターンを示します。
●X連鎖潜性(劣性)遺伝
X連鎖潜性(劣性)遺伝では、異常な(変異を持った)遺伝子がX染色体上に位置しています。このタイプの疾患は男性においてより一般的に発症します。
【表現型の発現】
男性(XY)は1つのX染色体しか持っていません。そのため正常な対立遺伝子が無く、1つの異常な対立遺伝子(Xa)だけで疾患が発症します。
女性(XX)は2つのX染色体を持つため、異常な対立遺伝子が2つそろった場合に限り(XaXa)疾患を発症します。異常な対立遺伝子を1つだけ持つ場合(XaX)はキャリア(保因者)となりますが、通常は症状を示しません。
【遺伝のパターン】
キャリア女性(XaX)と正常男性(XY)の間では、50%の確率で男児が疾患を持ち、50%の確率で女児がキャリアとなります。
疾患を持つ男性(XaY)と正常女性(XX)の間では、すべての女児がキャリアとなり、すべての男児は正常です。
【例】
血友病:血液凝固因子の欠乏により、出血が止まりにくくなる疾患。
デュシェンヌ型筋ジストロフィー:筋肉の進行性の衰えを引き起こす疾患。
顕性(優性)と潜性(劣性)の遺伝は、単一遺伝子疾患の発症において重要な概念です。
顕性(優性)遺伝では異常な遺伝子が1つでも疾患が発症し、潜性(劣性)遺伝では両方の遺伝子が異常である場合にのみ発症します。
これらの違いを理解することで、遺伝病のリスク評価や遺伝カウンセリング、治療法の開発における基礎が築かれます。
遺伝 or 突然変異
単一遺伝疾患の発症において、新規(de novo)の突然変異による発症と遺伝による発症のどちらが多いかは、疾患ごとに異なります。一般的には、遺伝による発症が多いとされています。
遺伝による発症の場合、患者は変異を持つ親から遺伝する可能性が高くなります。潜性(劣性)の遺伝疾患の場合、片親が変異を持っている場合でも子供が疾患を発症する可能性があります。一方、顕性(優性)の遺伝疾患の場合、片親が変異を持っている場合、子供が疾患を発症する可能性はさらに高くなります。
一方で、新規(de novo)の突然変異による発症もあります。新規の突然変異は、通常は親から受け継がれるわけではなく、むしろ個人の生殖細胞や胎児の発生中に生じる変異です。新規の突然変異によって生じた変異が原因で疾患が発症することがありますが、これらの疾患は通常は遺伝的に再現性が低いため、家族歴に基づいたリスクの評価が困難です。
したがって、多くの単一遺伝疾患は遺伝による発症が主であり、新規の突然変異による発症は比較的まれですが、特定の疾患や変異によって異なる場合があります。
疾患例
●軟骨無形成症 (Achondroplasia)
軟骨無形成症は、骨格の形態や成長に影響を与える軟骨の異常によって特徴付けられる遺伝性障害です。
これはFGFR3遺伝子の変異によって引き起こされます。この変異により、遺伝子の機能に異常を生じ、骨の成長が過度に抑制され、身長の矮小化や四肢の短縮などが生じます。
●デュシェンヌ型筋ジストロフィー (Duchenne Muscular Dystrophy、DMD)
筋ジストロフィーは、筋肉の変性と筋力の低下を特徴とする一連の障害を指します。
デュシェンヌ筋ジストロフィーは、X染色体上のDMD遺伝子の変異によって引き起こされます。この変異により、筋肉をサポートするタンパク質であるジストロフィンが不十分になり、筋肉の構造と機能に障害が生じます。
●ハンチントン病(Huntington's Disease、HD)
ハンチントン病は、中枢神経系の変性疾患であり、神経細胞の死滅が進行することで運動機能や認知機能に障害を引き起こします。
この疾患はHTT遺伝子の変異によって引き起こされ、顕性(優性)の遺伝パターンを示します。
●先天性多発性筋炎(Congenital Myasthenic Syndromes、CMS)
先天性多発性筋炎は、神経筋接合部の機能不全によって引き起こされる疾患群です。
これらの疾患は、神経伝達物質の放出や受容に関与する遺伝子の変異によって引き起こされます。
●フェニルケトン尿症(Phenylketonuria、PKU)
フェニルケトン尿症は、フェニルアラニン代謝の異常によって引き起こされる代謝性疾患です。
この疾患は、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)酵素の欠陥によって引き起こされます。
●嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis、CF)
嚢胞性線維症は、主に肺や膵臓、消化管などの器官に影響を及ぼす遺伝性の疾患です。
この疾患は、CFTR遺伝子の変異によって引き起こされます。CFTR遺伝子は、塩素イオン(陰イオン)の輸送を調節するタンパク質をコードしており、その変異によって正常な塩素イオンの輸送が妨げられます。
CFの症状には、慢性的な呼吸器感染、肺機能の低下、消化管の問題(膵臓の機能不全や腸閉塞など)、体重増加の困難、塩分の排泄不全などが含まれます。この疾患は、潜性(劣性)の遺伝パターンを示し、両親が変異を持つ場合、子供がCFを発症する可能性があります。CFの診断は、遺伝子検査や臨床症状に基づいて行われ、早期発見と治療が重要です。
CFは、現在では対症療法や薬物療法などの進歩した治療法があり、患者の生活の質を改善することが可能です。しかし、この疾患は現在でも治癒する方法はなく、患者は生涯にわたって継続的な管理と治療を必要とします。
診断と治療
単一遺伝子疾患の診断は、家族歴の調査や遺伝子検査を通じて行われます。遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医の協力も重要です。
治療法は疾患や症状によって異なりますが、症状の軽減や進行の抑制を目指すことが一般的です。例えば、物理療法や特定の薬物療法が行われることがあります。またPGT-Mにより、体外受精により作成した胚で変異の状態を調べて移植(妊娠)をすることが可能です。
単一遺伝子疾患は、次のような手順で発見されます。
家族歴の調査
最初に、疾患が家族内でどのように広がっているかを調査します。特定の疾患が家族内で何世代にわたって伝播しているかを調べることが重要です。家族歴に基づいて、特徴的な遺伝的パターンが見つかることがあります。
遺伝子解析と遺伝子マッピング
疾患の原因となる遺伝子を特定するために、遺伝子解析や遺伝子マッピングが行われます。これには、DNAシーケンシングや遺伝子マーカーを用いた解析が含まれます。特定の遺伝子の変異が特定の疾患と関連していることを特定することが目標です。
遺伝カウンセリング
遺伝カウンセリングは、遺伝的リスクや遺伝子検査の結果に関連する情報を提供するプロセスです。これには、家族歴や遺伝的リスクの評価、検査の解釈、疾患のリスクおよび管理に関する情報が含まれます。
機能解析
特定の遺伝子の変異が発見された場合、その遺伝子の機能がどのように影響を受けるかを理解するために機能解析が行われます。これには、in vitroやin vivoでの実験や、細胞や動物モデルを用いた解析が含まれます。
臨床試験
特定の遺伝子の変異が特定の疾患と関連していることが確認された場合、その疾患の治療法や予防法を探るために臨床試験が行われることがあります。
以上の手順を経て、特定の遺伝子変異が特定の疾患と関連していることが確認され、その疾患の理解や治療法の開発に向けた研究が進められます。
最新の研究動向
単一遺伝子疾患の研究は、遺伝子編集技術の発展や遺伝子治療の新たな可能性など、革新的なアプローチによって進化しています。
これにより、遺伝的な原因を治療する新たな治療法の開発が期待されています。
また、直接疾患の原因を治療するのではなく、体外受精により作成した胚を調べて(PGT-M)、疾患の影響を受けない胚を選んで移植・妊娠することが可能です。
まとめ
単一遺伝子疾患は、個々の遺伝子の変異によって引き起こされる疾患であり、遺伝子解析や家族歴の調査を通じて診断されます。
治療法は疾患や症状によって異なりますが、症状の軽減や進行の抑制を目指すことが一般的です。最新の研究動向により、新たな治療法や治療戦略が開発され、患者の生活の質が向上することが期待されています。



